ベルベットの騎士

「そしたらあの時、ウィル様のお怒りに触れる事もなかったんだわ、きっと」
それどころか楽しいおしゃべりを、さっきよりもずっと長く続けられたに違いなかった。
「だから今度はもっと慎重に考えないと。私が持っている知恵と知識を全て使って、ウィル様を助けないと」
けれど、本当にそんな事ができるのだろうか?奴隷の中でも最下層の麻の奴隷。ふしだらな麻の騎士の子孫。咎人の麻の奴隷の中でも最も身分卑しき女奴隷。

生まれてから今まで周囲から言われ続けられた嘲りの言葉が、わんわんと頭の中で反響する。

いっそ今すぐウィル様を連れて国境まで逃げようか?いや、それはできない。その事は裏庭からこの部屋に戻る道筋すがら何度も考えた。