ベルベットの騎士

「朝の配達をしようと勝手口まで参りましたら、不意に中から怒鳴り声が聞こえましたので。お怪我はございませんか?」
男は鋭い視線を室内に走らせた。そして、あまりに唐突な出来事続きで棒立ちになっているフィナンに、顎をしゃくって退室を促した。

彼女はウィルをこの男と2人きりにするのは、心配でならない。そこで、恭しく1礼すると台所の扉を閉め、外から聞き耳を立ててた。
「このおじさんは伯爵家のコックなの?」
「滅相もない!昨日も申し上げましたが近郷の者でして、料理の腕が良いという評判でしたので若様が当別荘にご逗留の間のみ、特別に雇い入れたのでございます」