ベルベットの騎士

「あの、怒ってらっしゃるのですか?」
「怒ってなんかないよ」
だがその声は明らかに怒気を含んでいた。背を向けたまま、ウィルは彼女を見ようともしない。

だからフィナンシェはどうしていいか判らなかった。

ウィルの理屈は難解でさっぱり理解できなかったし、彼がなぜ腹を立てているのかも判らなかった。ただ解っているのは全ては自分のせいだという事だった。

さっきまでの高揚感が嘘だったように胸の中で、小さくしぼんで行く。

このお菓子の名前を自分の名前にして貰えば、私は一生涯幸せな気持ちを忘れずに済むと思ったのに。

甘いお菓子は人を幸せにする。それは本当だ。でも食べ終えてしまったらその幸せも一緒に消え失せてしまう。

こんなにもあっさりと、跡形もなく……。