「ウィル様、私に名付けをして下さい」
「ウィルだけでいいよ。うん!どんな名前がいいかな」
「あの、宜しければフィナンシェと」

女は頬を上気させ力強く主張する。いつも何かを諦めたような彼女が、初めて見せる積極性はウィルを喜ばせた。
「うん!優しそうな響きがお姉さんにピッタリだね!それに縁起もいいんだよ、このお菓子。“お金持ち”って意味があるんだ。ほら、色と形が金塊に似てるでしょ?この国に来てもどうしても食べたくてさ。フィナンシェの金型だけは使い馴れてる物を鞄に入れて来たんだ」
大はしゃぎで菓子の由来を説明するウィルにフィナンシェは覚悟を決める。
「名付けをした主には特権があります。行使されますか?」
「え?何それ?」

途端に、ウィルに嫌な予感が走る。昨日の侍女の意地悪な笑顔が脳裏に浮かんだからだ。