「ベルベットの騎士は死んだって事?」
「いいえ、私達奴隷の伝承では、ベルベットの騎士様は今も生きていて、千年もの間世界を放浪しながら、輝くばかりの銀の甲冑と眼にも鮮やかな空色のベルベットのマントを翻し、いつか奴隷達を救いに来て下さるそうです。ですが、神聖フランツ王国は絹の騎士の末裔である現国王のものです。奴隷はもちろん、国民の誰も公にこの話を口にする者はいません」
身を乗り出して聞き入るウィルに女は優しく微笑んだ。
「でも変だね、この話」
「え?」
「だって、剣と錬金術じゃ、錬金術の方が勝つに決まってるじゃん」
「そう、ですか?」
「うん!だって錬金術は科学だもん!科学が野蛮な斬り合いに負け理由がないね。錬金術師の僕が言うんだから間違いないよ!」
自信満々に笑うウィルに女は侍女からの命令を思い出す。そして無意識に服の下に忍ばせた小袋を握りしめる。
「若様のお国には本当に錬金術があるのですか?」
「ウィルだってば!あ、お湯が沸騰してる!」
少年は慌てて席を立つと火にかけたやかんへ向かう。そしてやかんを火から外すとミトンを両手にはめて石造りのオーブンから角皿を取り出した。