「若様、あの、遅れて」
「あ!おはよう!昨夜はよく眠れた?早くこっちに来て!コックが来る前にさ!」
訳も判らず呼ばれるままに少年に近づくと、作業台の上には小麦粉や卵の殻が所狭しと散乱していた。
「お姉さんはこの金型にそこのバターを塗って!」
料理をするのは生まれ初めてなので、要領が全く解らない。そもそも奴隷は、高貴な身分の者の料理をするどころか、材料に触れることすら許されなかったからだ。

意味は判らないが女は受け取った細長い台形の型に、予め溶かしたバターを、恐る恐る刷毛で塗る。その間に少年はお湯を入れた大鍋に、銅のミルク鍋を浮かべ、砂糖と水飴を湯煎する。