その日、少年はやって来た。

神聖フランツ王国の秋空はどこまでも晴れ渡り、少年の来訪を祝福しているようだった。国境線を巡る、アドイス合衆国との3年に渡る戦争が両国合意の下ようやく休戦。合意文書が締結された翌月の事である。

アドイス高官の息子であるこの小さな男の子は、菓子作りの遊学の名目でこの国を訪れていた。
「早く僕の家を見せてよ!」
黒塗りの箱馬車に乗り込むなり5、6歳に見える少年は、元気一杯に世話役の男にねだった。
「これはこれは、朝からの祝典続きでさぞお疲れと思っておりましたが」
「平気だよ!パレードは退屈だったけどね」
仕立ての良いツイードの背広。だがコロンとした可愛らしい体格の少年は、座席に座ると膝の上に鳥籠を乗せた。