私の名前を呼んだ彼は、焦ったように走って校門の方に行ってしまった。

どうやら先生に手伝いを頼まれてきていたわけではなかったらしい。

けど、なんで…私の名前知ってたんだろう。

あんな素敵な人、会ったことあれば忘れないと思うんだけど。

「あーあ、逃げられちゃったな〜」

「わっ、先生見てたんですか」

「いや〜いい感じの雰囲気かと思ったんだけど、伊東でも無理だったか」

まぁ仕方ないよな、みたいなことを言いながら、花壇の前に座り、作業を始めようとしている先生の隣に私も座りこむ。

「あの人…、先生の知り合いですか?」

「おいおい、まじか!誰か知らなくて話してたのかお前」

「いや、そんな信じられないみたいな顔されても……」

「クラスメイトの顔ぐらい、ちゃんと覚えとけよ委員長〜」

クラスメイトの、顔?

そこまで言われて初めて、クラスメイトに水瀬くんという、まだ1度も登校している姿を見たことがない男の子の存在を思い出す。

「……え?まじですか?」

「マジだよ、まぁ髪の色も変わってるし分からなくてもしょうがないけどさ〜」

「普通に、大学生さんですか?とか聞いちゃったじゃないですか……先に教えておいてくれないと」

とんだ恥をかいてしまった、と気まずい気持ちをごまかすように先生からスコップと軍手を奪い取り、花壇に花を植え替える。