坂野さんは目を泳がせた。
しまった、と思っても遅かった。
「いや、ほら……高校生が行ったらいけないところに連れていかれたりしたらいけないし、なんか薬も飲んでるって聞いたから……」
坂野さんが心配して言ってくれたのだとわかっても、一度生まれた感情が消えてくれない。
しかし、これ以上坂野さんに罪悪感を抱かせないためにも、笑顔を取り繕う。
「心配してくださり、ありがとうございます」
「ううん。なんか、ごめんね」
それからお互いに気まずくなったまま、一時限目の古典の授業が始まった。
授業が終わり、教科書をしまっていたら、坂野さんが振り返った。
「小野寺さん、一緒に移動しよう?」
さっきの気まずさがまるでなかったかのように、明るく提案してくれた。
坂野さんの机の上には生物の教科書が置いてある。生物室の場所がわかっていなかったため、この誘いはとても助かる。
また迷子になるところだった。
「……はい」
私も立ち上がり、生物の教科書と筆箱、ノートを両手で抱える。東雲さんは出入り口付近で私たちを待ってくれていた。
私だけが気まずさを未だに引きずり、二人から一歩後ろを歩く。
だけど、二人はときどき私に話しかけてきた。そのたびに私は上手く笑えなかった。
自分のダメな部分が浮き彫りになり、俯き気味に歩いていたら、視界の端に金色の髪がちらついた。
まさかと思って右を向くが、目の前にはガラス、そして中庭を挟んで校舎があるだけで、笠木さんの姿はない。
見間違い、だったのか。
「小野寺さん?どうしたの?」
私が立ち止まったことに気付いた二人が、不思議そうに私を見ている。
「いえ……なんでもありません」
笠木さんを見かけたかもしれないと言えなかった私は、空いてしまった二人との距離を縮める。
生物室に着くまで何度も話しかけてもらっていたのに、さっきのことに気を取られ、余計に曖昧な返ししか出来なかった。
その授業が終わると、お手洗いに行くと嘘をつき、笠木さんを見かけたと思った場所に行った。
一度は気のせいだと思ったが、授業中ずっと気になっていて、確認することにした。
そこには階段があるが、この校舎にこれ以上階はない。つまり、今目の前にある階段は屋上への階段ということになる。
妙な好奇心に駆られ、一段足を踏み出す。
「おいおい、ここは立ち入り禁止だぞ、お嬢様。もしかしてまた迷子か?」
上から声が聞こえてきて、ゆっくりと見上げる。そこにはやはり、笠木さんがいた。
「また固まった。もしかして俺に惚れた?」
「ち、違います!」
慌てて否定すると、笠木さんは声を殺して笑った。
しまった、と思っても遅かった。
「いや、ほら……高校生が行ったらいけないところに連れていかれたりしたらいけないし、なんか薬も飲んでるって聞いたから……」
坂野さんが心配して言ってくれたのだとわかっても、一度生まれた感情が消えてくれない。
しかし、これ以上坂野さんに罪悪感を抱かせないためにも、笑顔を取り繕う。
「心配してくださり、ありがとうございます」
「ううん。なんか、ごめんね」
それからお互いに気まずくなったまま、一時限目の古典の授業が始まった。
授業が終わり、教科書をしまっていたら、坂野さんが振り返った。
「小野寺さん、一緒に移動しよう?」
さっきの気まずさがまるでなかったかのように、明るく提案してくれた。
坂野さんの机の上には生物の教科書が置いてある。生物室の場所がわかっていなかったため、この誘いはとても助かる。
また迷子になるところだった。
「……はい」
私も立ち上がり、生物の教科書と筆箱、ノートを両手で抱える。東雲さんは出入り口付近で私たちを待ってくれていた。
私だけが気まずさを未だに引きずり、二人から一歩後ろを歩く。
だけど、二人はときどき私に話しかけてきた。そのたびに私は上手く笑えなかった。
自分のダメな部分が浮き彫りになり、俯き気味に歩いていたら、視界の端に金色の髪がちらついた。
まさかと思って右を向くが、目の前にはガラス、そして中庭を挟んで校舎があるだけで、笠木さんの姿はない。
見間違い、だったのか。
「小野寺さん?どうしたの?」
私が立ち止まったことに気付いた二人が、不思議そうに私を見ている。
「いえ……なんでもありません」
笠木さんを見かけたかもしれないと言えなかった私は、空いてしまった二人との距離を縮める。
生物室に着くまで何度も話しかけてもらっていたのに、さっきのことに気を取られ、余計に曖昧な返ししか出来なかった。
その授業が終わると、お手洗いに行くと嘘をつき、笠木さんを見かけたと思った場所に行った。
一度は気のせいだと思ったが、授業中ずっと気になっていて、確認することにした。
そこには階段があるが、この校舎にこれ以上階はない。つまり、今目の前にある階段は屋上への階段ということになる。
妙な好奇心に駆られ、一段足を踏み出す。
「おいおい、ここは立ち入り禁止だぞ、お嬢様。もしかしてまた迷子か?」
上から声が聞こえてきて、ゆっくりと見上げる。そこにはやはり、笠木さんがいた。
「また固まった。もしかして俺に惚れた?」
「ち、違います!」
慌てて否定すると、笠木さんは声を殺して笑った。