「……玲生、私が言ったこと、気にしてる?」

車で帰っているとき、母さんが俺の様子を伺うように聞いてきた。

「……怖いんだ。誰かを好きになるのが」

言葉にすると、その恐怖が明確になって、声が震える。

「中途半端に誰かを好きになることはできない。かと言って、真剣に好きになったら……欲が出そうで……もっと生きたいって」

堪えきれずに涙が落ちる。まさかこんなことで泣くとは思ってなくて、自分で驚く。

「ずっと、後悔しないようにっていろいろしてきた。それが、全部無駄になるような気がするんだ」

全部言ってしまうと、少し気持ちが楽になった。指で涙を拭う。

「……玲生は、いい子だね。自慢の息子だ」

今の話でどうしてそうなったのかわからない。

「これは私が勝手に思ってることで、また玲生を苦しめるかもしれないから、聞き流してほしいんだけど……」

聞き流してほしいと言われると、できないような気がする。

「玲生がやりたいことを後悔しないように、自分の力でやっているところを見てると、私は玲生が死ぬ準備をしているように思えるの」

本当に聞き流せない。

たしかに後悔しないような生き方をしようって決めてるけど、それが死ぬ準備をしているつもりはなかった。

でも、そうか。他人から見ると、そう思うのか。

「だから、玲生がもっと生きたいって思ってくれるなら、やっぱり好きな人を作ってほしいなって、思っちゃうな」

それを最後に、お互い黙ってしまった。

どこかに寄る気分にもならなくて、まっすぐ帰ったから、家に着いたのは昼前だった。

インスタントラーメンを食べると、俺は自室にこもった。

ベッドに仰向けになって寝る。カーテンが開いていなくて、電気が付いていない部屋は、昼でも薄暗い。

黙って天井を見つめていたら、いつの間にか眠ってしまっていた。

母さんに夕飯ができたと起こされ、食卓に向かう。

「おはよう、玲生くん」

そこにはなぜか汐里さんがいた。

「恵実さんと旅行に行ってたんだって?学校サボって悪い子だなあ」
「お土産を嬉しそうに食べてる人には言われたくない」
「む。可愛くなーい」

汐里さんは俺に向けて舌を出した。

「ほら、二人とも仲良くね。汐里ちゃんには本当に感謝しなきゃいけないんだし」

母さんは料理を並べている。

それを言われると、俺は何も言えないじゃないか。

汐里さんが養護教諭をしているのは、俺が学校に通っているからだ。いつ体調が悪くなってもフォローできるように、と。

でも、汐里さんに感謝はしてるけど、それとこれは話が別だろう。