張り詰めた空気で、息を呑む。

「円香……自分が何を言っているのか、わかっているのか?」

翌朝、お父様に笠木さんとの結婚について伝えると、背筋が凍るほど睨まれた。

お父様は朝食の途中だったが、箸を置いた。まだ席に着いていない私は、一歩下がりそうになるのを、必死にその場に踏みとどまる。

後ろに下がれば、逃げたことと同じだ。お父様を説得できなければ、笠木さんは手術ができない。

逃げてはいけない。

「……わかっています」

お父様の顔はより険しくなる。

「わざわざ結婚しなくとも、彼の手術費は出す。それなのに、どうして結婚するなんて言い出したんだ」

誰かを一途に思うことは許してくれても、実際に結婚となると話は別らしい。お父様が怒っているように見えて仕方ない。

「笠木さんが……友達の親の金で手術はしたくない、と……」

声が震える。お父様はため息をついた。

「本人と直接話したほうが早いな」

驚いて口を開けたが、私の声は音にならなかった。お父様が笠木さんに会うと言ったことに動揺して、頭が回らない。

「柳、田崎に予定を調整するよう伝えておいてくれ」

私が固まっていたら、お父様は箸を手にして黙って立っている柳に言った。

田崎さんはお父様の秘書だ。

「……かしこまりました」

その指示に従うことが嫌だったのか、顔を顰めながら返答した。料理をつついているお父様には見えていないが、私からははっきりと見えた。

結婚に一番反対しているのは、柳かもしれない。

そんなことを思いながら、用意されていた朝ごはんを食べた。



お父様が笠木さんに話を聞きに行く時間を田崎さんに聞き、その時間に合わせて病院に行った。

今日は恵実さんが来ていたらしく、非常に気まずい空気になつている。

「えっと……円香ちゃん、この方は……?」
「円香の父です」

私が答えるよりも先にお父様が答え、頭を下げた。それにつられるように、恵実さんもお辞儀をする。

「笠木玲生の母です」

お互いに挨拶をしても、空気は変わらない。

私と笠木さんは、二人を交互に見て様子を伺う。

「それで、どうしてここに?」
「彼の手術費についての話をしに来ました」

お父様がそう答えると、恵実さんは目を見開いて笠木さんを見るが、笠木さんはその視線から逃げるように顔を背けた。

「玲生、どういうこと?手術する気になったの?」
「……まあ、そういうことになる」

笠木さんはどこか曖昧に答える。

だけど、そんなことよりも気になることがあった。

「笠木さん、言ってなかったんですか?」

大切な話で、恵実さんに言わずに手術をすることはできないはずだ。

それなのに、笠木さんはそれを言っていなかったのか。