家に帰っても暇なだけだし観てみるかーー。
それはほんの気紛れだった。
人混みが苦手な俺はいくら興味を惹かれたとはいえ、本来ならば映画館になど足を踏み入れることはしかっただろう。
レンタルが開始されるのを待ってから、酒を片手に自宅でゆっくりと鑑賞すればいいのだ。だが、目の前に建つ寂れた映画館がそんな選択肢を薄れさせた。
きっと観客など殆どいないだろう。目前にあるビルは、そう思う程には荒廃して見えたのだ。
斯くしてこの『スナッフフィルム』を偶然にも観ることとなったのだが、初めに予想していた通りのPOV方式で撮影されたこの映画は、俺の想像を遥かに超えた臨場感で極上のエンタメを与えてくれた。
期待以上の出来にすっかりとハマってしまった俺は、これがシリーズものの三作品目だったと知るとその足でレンタルショップへと急いだ。だが、何件まわってみても見つからない『スナッフフィルム』。
後日ネットで調べてみると、どうやら映画館での上映のみでレンタルはされていないらしかった。それどころか、かなりマイナーな作品らしく上映されている映画館も限られているみたいだ。
この作品に出会えたこと自体が奇跡だったのだ。
だが、マイナーといってもコアなファンとはどこにでも一定数存在するわけで、主にネットを中心にちょっとした話題にもなっていた。
『実際の殺人映像』との触れ込みで毎回上映されるこの映画。それは、ファン達の間ではこれは紛れもなく本物の殺人映像なのだと、誰が言い始めたのか誰が信じるのか、そんな噂がまことしやかに囁かれていた。