自宅が一番落ち着くから。という理由で、趣味である映画鑑賞でさえ(もっぱ)ら自宅で済ませてしまう俺が、その日映画館の前で足を止めたのは今にして思えばほんの偶然だったのかもしれない。何となく目に付いた。それだけだった。

 歩道に面した壁に貼られた一枚のポスター。
 それは、一面が黒一色でその中央に白い文字で【スナッフフィルム】と書かれただけのとてもシンプルなものだった。

 なんだこれ……?
 初めてそのポスターを見た俺の感想はそんなものだった。
 ポスターを貼り出しているビルをよくよく見てみれば、どうやらここは映画館らしい。ということは、ここで上映中の作品なのだろうか?

「聞いたことないな……」

 改めて目前にあるポスターを見つめた俺は、ポツリと小さく声を漏らした。

 知らないタイトルはない。というぐらいに大のホラー映画好きであると自負している俺は、その見慣れないタイトルに至極興味をそそられた。
 勿論、『スナッフフィルム』という言葉の意味ぐらいは知っている。ホラー好きなら誰しもが一度は聞いた事があるはずだ。

 娯楽用途に流通させる目的で撮影された実際の殺人映像。そんなものが本当に実在するのかは定かではないが、あったとして、こうして映画として流通しているなんて事はまずないだろう。
 俺だって、はなからそんな期待はしていない。

 実際の殺人映像か……。きっとPOV方式だろうな。
 最近ではフェイクドキュメンタリー作品も少なくはなく、POV方式で撮影された映画も珍しくはなくなった。
 ただ単純に、俺は知らないタイトルに興味を惹かれただけだった。