美希が戻ってきてから一カ月が経ち、俺もすっかり今の生活に慣れてきた。
家に帰れば笑顔で美希が出迎えてくれ、俺達は一緒に夕食を取り、夜は美希を抱きしめて眠った。

俺は手に持った小さな箱を見て微笑む。
今日は美希と付き合って十年目の記念日。
高校の同級生だった俺達は、俺の一目惚れで交際をスタートさせた。

イチゴの乗ったショートケーキを嬉しそうに食べる美希の姿を想像すると、俺はケーキの入った箱を持って家へと急いだ。

家の近くまで行くと、急に周りが騒がしくなる。
嫌な予感がした俺は家へ向かって走り出した。
そこにはたくさんの人集り(ひとだか)りと二台の消防車が止まり、俺の住む木造アパートが燃え上がっていた。

「ーー美希!」

俺は人集り(ひとだか)りを押し退けると家の中へ入ろうとする。

「君! 危ないから下がって!」
「美希が! ーー美希が中にいるんだ!」

俺は制止を振り切ると急いで自分の部屋へと向かった。

美希……。美希……。
無事でいてくれ……。

燃え盛る炎の中、俺は自分の部屋へ入ると美希を探した。

「美希! ……美希!」
「京ちゃん……」

声のした方へ行くと、そこには泣きながら(うずくま)る美希の姿が。
俺は美希の元へ行くとその小さな身体を抱きしめた。

「美希、もう大丈夫だよ」
「京ちゃん……」

美希は泣きながら震える手で俺を抱きしめる。

美希が俺の元へ戻ってきた日、美希は俺に言った。
『この家から出たら私は消えてしまう』と。

俺は腕の中にいる美希をキツく抱きしめると、美希の耳元で囁いた。

「大丈夫、もう美希を一人にさせないよ」

俺は抱きしめている身体を少し離すと、目の前の美希を見つめ、その唇にキスをした。

「ーー愛してるよ、美希」

俺はそう言うと美希を見つめて優しく微笑んだ。