いっぽう。

 千波は自宅から練習用に使っていたキーボードを部室へ持ち込み、

「優海ちゃん、これでボイトレできるよ」

 と、優海のボイストレーニングに付き合ってくれるのはいいのだが、平気でオクターブの高い音域まで出すので、のどが切れて血が出そうになる。

「でも声楽とかオペラじゃこのぐらい当たり前だよ? 優海ちゃん、プロ目指すならこのぐらいはやらなきゃ」

 それもそうで、千波は交響楽団のビオラ奏者の娘であった。

 少し取っ付きづらい優海を、普段からほんわかした千波がとっちめる光景はさながらコントで、

「だんだんキャラが揃ってきたね」

 模試の帰りに部室に立ち寄る程度にはなったが、澪は見に来た際に言い、

「新しいアイドル部になりそうだね」

「何それ。まるで母親みたいな目線だよね」

 藤子もクスクス笑い始めた。