帰りに澪は、稲積公園の駅の近くにあった美波のマンションに寄った。
「美波、少し話そう」
「うん」
稲積公園駅の橋にもたれかかると、
「美波らしいな」
「グッチー、ごめんね」
「美波がしたことは良くないけど、でも美波らしいなって」
橋の下を電車が過ぎてゆく。
「だって、行ったら点差開いてたから…」
「先生もそれは責めてなかったよ」
「うん…」
どこかで汽笛が鳴った。
「とりあえず、部を休む扱いにしたみたいだから、オーディション受けに行ってみたら?」
美波は驚愕した顔になった。
「私は知ってたよ。茉莉江ちゃんから聞いた」
美波が捨てたチラシを、茉莉江がたまたま見たらしい。
「美波なら、いいアクション女優さんになれるかもって茉莉江ちゃん言ってたよ。だからチャンスだと思って東京のオーディション、受けてきなよ」
美波は、いつの間にか涙がこぼれ始めていた。
「東京に行っても、私たちを忘れないでね」
澪は笑った。
美波は無言のまま、金星の輝く天を仰いだ。