職員室の清正の机に来ると、
「乾くん、アイドル部を辞めたいんやそうや」
机の上には、美波の字で退部届と書かれた封筒がある。
「関口くん、君は辞めさせるんか? それとも引き留めるんか?」
まさにアイドル部存亡の危機であろう。
「美波が辞めるなら、私も辞めます。監督不行き届きですから」
「それで言うたらワイも同罪やがな」
清正は椅子を出して、
「まあ座れ」
すかさずバッグからペットボトルの緑茶を出した。
「別にワイはバレーボールに出たことを責めた訳ではあれへん。仲間を助けるのは当たり前やからや」
しかし、と清正は続ける。
「でもルール違反をした。これは社会に出たとき同じことをしたらエライことになる」
アイドルである前に一人前に通用するようにするのが、顧問の仕事である…というのである。
「せやから、しばらく部活は控えとけとだけ言っておいた。退部届はワイが預かる」
清正も、心を痛めていたらしかった。
「それとな関口くん」
清正は続ける。
「こうしたときのリーダー、まぁ戦で言うたら大将みたいなもんやが、大将は少しだけ臆病でないとアカン」
「臆病?」
「せや、臆病や。イノシシみたいに無闇やたらに突っ込んでいく大将もおるが、大将は戦場で首を取られたら負けで、負けたら配下の者は路頭に迷う」
だからそこは間違えるな、というようなことを諭した。