部室へ戻る廊下で、
「グッズ販売、か…」
「私たち、そんなに知られるようになったんだね」
藤子は言った。
一年前の同好会のときには考えられなかった話ばかりでもある。
「でも藤子ちゃんがいなかったら、ここまでは来られなかった。それだけは確かなことだよ」
澪は続けた。
「私たちは一人じゃない。みんな助け合ったり、ときにはいがみ合う日もあるけど、でも一人きりでは生きられない」
ののかと藤子がいなかったら同好会すら作れなかった──と澪は藤子に向かうと、
「ほんとに、ありがとう」
深々と頭を下げた。
「私は別にいいけど…ののかにはちゃんと伝えといたほうがいいよ」
互いに小学校からの間柄らしい、柔らかい中に芯のある物言いをした。
「私たちは偶像だから選ぶ自由がないって、前に澪ちゃんは話してたけど、私は自由がある偶像になりたい」
藤子は珍しく本音を明かした。
「だって私たち、アイドルである前に人間だしさ」
どこか可笑しみのある言い回しに、
「そうだよね、私たち人間だよね」
当たり前のことだが、忘れ去っていたことを澪は口にした。
「グッズはさ、うちらで先に作って売ろ」
藤子らしからぬ言葉ながら、先を見据えてはいたようである。