ところが、である。

 世の男子からは藤子のメガネ姿は好評であったようで、

「そこのメガネの彼女、お茶しよ?」

 なんと生まれて初めてのナンパに出くわしたのである。

 思わず藤子は手稲駅のトイレに駆け込んだ。

「…こんなこと、あるんだ」

 動悸を抑えるのに必死であったらしい。

「すっごい怖かったんだから…」

 慣れないことに恐怖を隠せなかった、藤子らしくない言動に、

「いいなぁ、最強のモテ武器なんて手に入れてさ」

 ののかにからかわれる始末であったが、

「私たちグループは、キャラがハッキリしてるほうがいいと思う。その点で藤子のメガネは強いかも」

 澪に言われると、悪い気はしない。

「だって、ススキノとか狸小路ならいざ知らず、手稲駅でナンパされたんだよ? サツエキ(札幌駅)なら何人声かけて来ることか」

 美波にかかると、身も蓋もなかった。

 それでも、少しだけ藤子の自信にはなったらしかった。