本番を間近に控えた練習のとき、事件が遭った。

 ダンスの練習中に、ちょっとしたはずみから藤子が足を捻挫したのである。

 幸い怪我は軽かったらしいのだが、滅多に起きないことだけに、

「藤子ちゃん、何か遭ったの?」

 唯が、顔を覗き込んだ。

「…実はね、最近ちょっと頭痛があってさ」

 藤子は苦笑いしながら、

「でもみんなに心配かけたくなくてさ」

「悪いこと言わないから、検査受けなって」

 その日は藤子を休ませ、大事を取りタクシーで帰した。

 明くる日、学校を休んで病院で検査を受けると、

「近視がひどくなって、視神経から頭痛が来てるようです」

 との診断である。

「この眼球の状態ではコンタクトレンズは使えないので、メガネを使うしかないですね」

「メガネ…」

 藤子は珍しく、

(どうしよう…)

 あまり表に動揺を出さないのが、レアなことだが暗澹たる気持ちを隠すことができなかった。