卒業式の朝。

 少しだけ雪がちらついたが、登校する頃には晴れた。

「晴れたね」

「うん」

 唯と二人、手稲駅から国道を渡って、道なりに坂をのぼってゆく。

 この年は雪が少なく、通学路に沿った軽川(がるがわ)の日だまりでは、フキノトウが早くも芽を出している。

「本州なら卒業式は桜らしいけど」

 雪の残る札幌で桜は四月の末である。

 校舎が、見えた。

 唯が振り返ると、うっすら白く積もった家並みが、坂の下に広がっている。

「気にしたことなかったけど、いい眺めだよね」

「うん」

 晴れていた分、銭函の海岸線も、はるか先の暑寒別の稜線も見えた。

 校舎の玄関では後輩たちが集まっていた。

「藤子ちゃーんっ!!」

 後輩からも藤子ちゃんと呼ばれ親しまれた、文学が好きでメガネがトレードマークの彼女の、最後の登校である。

「みんな、寒いのにありがとね」

 手を振った。

 みな、ちぎれんばかりに手を振り返した。