みな穂に追い付いたすみれが、

「みな穂、さっきなんて言ったの?」

「巧言令色、仁すくなし」

 みな穂に言わせると、

「口先ばかりで中身が伴わない…そんな人は人徳がないって意味です」

 憤怒が内側にこもっているだけに、冷ややかな物言いは余計に恐怖を増幅していた。

「少しは反省してくれるといいけど…どうかな」

 みな穂も少しおさまってきたようで、

「すみれ先輩、ひとまずイリスを探しましょう」

 手分けしてあやめを探しした。

 みな穂には心当たりがあったらしく、

「多分あそこかな」

 と、図書室脇の階段をのぼった先の屋上に、やはりあやめはいた。

 あえて何も言わないまま近づき、

「…イリス、大丈夫?」

 みな穂はあやめを後ろからハグした。

 あやめは少し驚いたが、

「みな穂…」

「イリスは何も悪くなんかない」

 だから何も悲しくなる必要はない、と抱き締める腕を強めた。