が。

 修学旅行から帰ってきた翠がなぜか知っていて、

「ねぇねぇ聞いた? 先生の奥さんの話」

 思わず唯は顔が固まった。

 どこで話題を手に入れたかは分からなかったが、何せ生徒会長である。

 いくらでも情報源ならありそうではないか。

「何のこと?」

 唯は知らないふりをした。

 翠は得意気になって、

「すごくラブラブだったらしいんだけど、四年ぐらい前に肺炎で亡くなって。もともと喘息だったから悪化してから早かったんだって」

 妙に明るく話す翠に、だんだんあやめは腹が立って来たようで、

「…!」

 無言で翠を平手打ちした。

「…何?!」

「見損なった。そんな人だったなんて」

 あやめの目には涙が浮いている。

 翠は他人に叩かれたことがなかったのか、その場にヘタり込んだ。

「私もその話は知ってたけど、それよりあなたが他人の不幸を明るく話すような、無神経な人だとは思わなかった」

 あやめは静かに言った。

「私…そんな人に、たとえ生徒会長であっても、守ってもらいたいなんて思わない」

 あやめは部室を出た。

 重い沈黙が流れたあと、

「…巧言令色、仁すくなし」

 とだけつぶやくと、みな穂も部室を出た。