リラ祭ライブの日。
やはり翠は生徒会の仕事が忙しいらしく、なかなか顔も出せないでいた。
「いいじゃん、部費だけ払ってくれるタニマチさんなんだから」
みな穂がタニマチという古い表現を敢えて使ったせいで、翠はこの頃にはセラミックス以外にもタニマチさんと呼ばれていた。
人気投票は二日目で、今年は雪穂と千波の一騎打ちの様相となりつつある。
「藤子ちゃん、出てないからね…」
今回は藤子は辞退した。
少し寂しいかと思いきや、そうでもない。
ライブはsea snow irisのジャズから始まった。
大人っぽい黒の衣装で『fly me to the moon』を演奏する三人は、
「あれは女子でも惚れてしまう」
とまでネットで話題になったほどである。
ジャズはどうかなと思ったが、意外にも教師たちのウケがよかったらしく、
「あれならアイドル部があってもいいな」
などと評価を得た。
このあとは唯がカバー曲で弾き語りライブ。
アコースティックギター一本で『幸福論』や『Darling』、谷村有美の『笑顔』といった、なかなか渋めのラインナップのカバーライブはウケも良かった。
転換の間、今度は千波がキーボードで登場。
「えーと、テレビで聴いたことのあるノリノリのナンバーを演奏しますので、乗っちゃってください!」
弾いたのは『ファイヤーボール』『eruption─タルカスより─』『コードブルー』、そして例の『ジョックロック』である。
タルカスでは全身を躍動させるように弾いたので大迫力であったらしく、一気にボルテージが上がってゆく。
さらにジョックロックはキーボードのデモが元ネタだという解説でどよめきが起きた。