入部はしないまでも、瀬良翠はアイドル部をバックアップする方針に変えた。
人が変わったように方向転換したことから、
「変節したね」
などとなじられることもあったが、
「そんなことは社会に出たらいくらでもあるって。今は自我を通すことのほうが難しい時代だしさ」
意外にもなぐさめたのは、念書を書かせたすみれであった。
そうした中でも。
毎日のダンス練習やボイトレは続いていた。
「私たちはね、来たるべき日に備えて生きていかなきゃならないのね。だから一日も休んじゃいけない」
ストイックで目標意識が強くて、それでいて周りには夢を振りまく…翠の見る目は少し変わったようで、
「私はどこで何を間違えたんだろう」
とだけ言った。
四月から翠のクラスで古典を教えるのが決まって、清正も多少忙しくなったが、日課の投げ込みは変わらない。
「別にトライアウトを受けるわけでもないのに」
すみれは不思議がった。
「なぜ投げ込みを続けるんですか?」
清正は手を止め、
「何が遭っても変えないものは変えない、ということは大切なんやで」
たまたまそれが十人十色で違うだけや、と清正は再び球を投げ始めた。