数日後。

 あやめのクラスに美波があらわれた。

「赤橋あやめの敵ってのは、どいつだ?!」

 みな黙ったままである。

 どこかであやめの件を聞いたらしいのだが、余りの凄まじい形相に、クラスじゅうが震え上がったままである。

 かつて澪がいじめられていたとき、当時一年生ながら美波は、主犯格だった三年生のクラスに一人でラケット片手に乗り込んで行き、

「澪のあだ討ちに来た」

 と殺気立った目を血走らせて言い放ち、三年生から恐れられたことがある。

 ほぼ、それに近いシチュエーションが出来ている。

「名乗り出ないなら、このクラス全員を敵とみなし、受験の内申書に一部始終を書いておくように仕向けるから、覚悟しとけ」

 今回は相手が後輩なだけに、なおさら恐怖心はましていたようである。

「…ったく、余計な手間取らせるんじゃねーぞ!」

 言い捨てて美波は去った。



 あとから美波は清正に呼び出され、

「何ちゅうことすんねん…」

 溜息をついてこぼしながらも、相変わらずの正義感の強さは認めた。

 だがしかしことがことだけに、清正もまるっきり放置するような意向もなかったらしく、

「しゃあないなぁ…大人が本気になったらどないなるか、ちょっとやるしかないか」

 清正は名簿を繰り開いて、あやめのクラスの担任を内線で呼び出し、

「ちょっと顔貸せや」

 関西弁なだけに、まるで博徒の出入りのような空気になったらしい。