◇◇◇


「ただいま」

 美月の父、祐一の声が玄関の扉が閉まる音とともに聞こえてきた。と同時に、カレーもちょうど出来上がったところで、美月はダイニングテーブルに鍋とお皿を運び始める。

「おかえりなさーい」
「初めましてー」

 ダイニングに入ってきた祐一の姿を見た瞬間、タカとコウはそう言いながら祐一を取り囲むように駆け寄った。

「あっ、ああ、ただいま……戻りました……」

 同じ顔をした双子。中性的な二人を見て、祐一は目を丸めている。取り乱した様子が、その言葉尻から感じ取れ、美月は思わず小さく肩を揺らして笑った。

「僕はタカと言います」
「うちはコウと言いますー」

 子供のように片手を上げて名を名乗ったあと、二人はグイグイと祐一の反応を確かめるように見入っている。
 そんな二人の圧とも呼べる雰囲気に圧倒された祐一は、その場に固まったまま、掛けている眼鏡のフレームを指で持ち上げ仕切り直した後、こう言った。

「初めまして、美月の父の祐一です。お二人が玲子が言っていた親戚の方ですね?」
「あっ、玲子ちゃんから聞いてますか? 良かった、それなら話は早いですわぁ」

 スマホが使えなかった美月とは違い、祐一は玲子から連絡が入っていたようだ。

「そうなんです。家族団欒の中にお邪魔してすみませんが、数日の間、一緒に住ませてもらいますんで、よろしくお願いいたしますー」

 コウが頭を下げた後、タカも同じように腰を折った。

「困った時はお互い様ですから。こちらこそよろしくお願いします」

 祐一も少し頭を下げた後、タカとコウの背後に立ち夕食の準備をしている美月に視線を送った。

「美月、夕食作ってくれたのか。ありがとう。父さんは着替えてくるから」
「うん、大丈夫。あとサラダも作るからゆっくり着替えてきて」

 二人の会話のキャッチボールを見るように、タカとコウは祐一と美月に視線を行ったり来たりと送った。
 祐一が姿を消してから、美月は再びキッチンへと戻り今度は副菜のサラダに取り掛かる。とはいえ、ただ野菜を切って盛り付けるだけなのだが。
 ……と、ちょうどその時だった。再び玄関の扉が開く音が聞こえた。

「ただいまー」

 声とともにキッチンに入ってきたのは、玲子だ。

「おかえりなさい」
「おかえり玲子ちゃーん」
「おっかえりぃ」

 美月の言葉をもみ消すかのようにそう言いながら、タカとコウは玲子に向かって駆け出した。