手紙の内容から、わたしの知り得ない夏哉がここにはいたことがわかる。
「キョウは夏哉くんが好きだったから、寂しいねえ」
足元に擦り寄っていくキョウの頭をくすぐるヒサコさんの声が、寂しいの文字をそのまま移したように切なくて。
「よかったら、また来てね」
「はい、ぜひ」
行く道を通せんぼするみたいにキョウがついてくる。
さっきは垣根の外まで出て来ていたし、見送りのつもりなのだろう。
すぐに戻るかと思いきや曲がり角の辺りまで、前方を歩いて案内するように尻尾を揺らめかせるから、まさか駅の方まで行かないかと心配になったけれど、駅が見えてきた辺りでわたしの足にぶつかってすれ違う。
「キョウ」
声をかけると、ぴくりと耳を震わせて振り返る。
透明度の高いガラス玉がふたつ、こちらを向いた。
赤い瞳の方は燃えるように、青い瞳の方は凪ぐように、とても釣り合いのとれた色をしている。
「……またね」
去っていくキョウの姿が見えなくなってすぐに、停車中の電車に乗り込む。
件の川の上を通るとき、決して落ちることはないとわかっていたけれど、強く目を閉じた。
週が明けた明後日。
最後の手紙を届けよう。