『どこにいるの?』
「高校の最寄りのひとつ先」
アカツキくんがどこに住んでいるのかは知らないけれど、主要駅から見て、わたし達の高校がある最寄りのひとつ先といえばわかるだろう。
『わかった。すぐ行く』
わたしの返事も待たずに、ぶつ、と通話を切られた。
駅までは戻らなければいけなくて、時間的に夕方になってしまうかもしれないから、とヒサコさんの家に戻ることも考えたけれど、どれほど遅くなっても構わない、と勝手に終着した。
待合室と簡素な改札しかない駅の外で壁に凭れていると、キキッと自転車のブレーキ音がした。
「橘さん」
アカツキくんは上着を羽織らずトレーナー一枚で、手荷物は何も持っていない。
ピッタリとしたスキニーのポケットもぺたんこで、携帯さえ持っていないのではないかと思う。
「場所、変える?」
これから話そうとしていること、聞かれるであろうことをもう薄々気付いているはずなのに、アカツキくんはここへ来ること自体がとても億劫であったというような目をしている。
表情ひとつ変えずに、どこを見ているのかわからない瞳を向けられて、尻すぼみしてしまいそうになったけれど、アカツキくんに向かって足を踏み出す。
夏哉と並ぶ背丈のアカツキくんを見上げると、お互いに逸らそうとしない瞳を追いかけるように、見下げられる。
逆光で、アカツキくんの無表情がとても恐ろしく見えた。
「ここでいい」
せめて端に移動しようだとか、そんな提案はしない。
周りからわたしとアカツキくんがどう見えているのかはわからないけれど、至近距離で見つめ合いながら、先に口を開いたのはアカツキくんだった。
「あんたがどこで何見て、何を知ったんだとしても、あいつは自殺だ」
「……なんとも思わないの?」
「思わないな」
おちょくるような声でも、ふざけている様子でもない。
ただ淡々と答えていくアカツキくんに、頬が紅潮していくのがわかる。
怒っているんだ、わたしは。
けれど、怒りのままに泣き喚いたり人に当たることが許されるような年ではないから、考えなければいけない。
やっぱり、当事者でもなければ見ていたわけでもないわたしに、確かなことなんて何も言えなくて。
アカツキくんを責めることはできない。
ここにアカツキくんを呼んでどうするのか、考えてもどこにもたどり着かない。
黙り込むわたしに、アカツキくんは均衡を保っていた瞳を呆気なく他所へとやってしまう。
居心地が悪くなって逃げたんじゃないだろう。
どうでもよくなったんだ、きっと。
「橘はチームバランスって考えたことある?」
さっき、あんたって呼ばれたことには多少驚いたけれど、橘と呼び捨てにされてももう何も思わなかった。
わたしの知っているアカツキくんと違うことへの戸惑いは先に全部取り払って、言葉だけに集中する。
緩く首を横に振ると、アカツキくんはピースサインをわたしに向けた。
2本、目の前に立てられた指を掴んで振り落とせたら、わたしは少しでも気を晴らせるのだろうか。
たった、それだけのことで晴れるのなら、試してみてやろうと思ったけれど、その前にアカツキくんは指を引っ込めた。
「ひとつは、凡人しかいないチーム。これがいちばんの理想だよ。ふたつめは、全員がエース並のチーム。これは均衡してるようで頭ひとつ抜きん出たやつがそのうち生まれるから、俺は嫌い」
「何が言いたいの」
「凡人しかいないチームにエースはいらないんだ」
アカツキくんの言う、エースは夏哉のことだ。
けれど、それは褒めるようなものではなくて、侮辱するような、侮蔑的な意味で吐かれたものだった。