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ヒサコさんへ


ヒサコさんの家の庭にある桜は、もう咲きましたか。

初めて会った頃、梅と桜の違いもわからなかったことが、懐かしいです。


ヒサコさんにも手紙があるってこと、教えていなかったのはちょっとしたサプライズのつもりだったんだけど、もしかしたら、これ、書かない方がいいのかもしれない。


最後まで書き終えて、俺が嫌だと思ったらその旨も書きます。

もし、文末にそのようなことが書かれていたら、この手紙はあの桜の木の下で燃やしてください。


消えたいって、何度も弱音を吐いてごめんなさい。

というと、謝罪はやめなさいと言われそうなので、付き合ってくれてありがとうございました、と伝えます。


ヒサコさんの前では不思議と、嘘がつけないんだよな。

隠していることも、ヒサコさんにはほとんど話していました。


俺が冗談めかして話しても、ヒサコさんには全部お見通しでした。

そんなわけないじゃん、と言った中のいくつかは、実は本当だったこともあります。


ヒサコさん。

人はどうして、人を傷付けることができるんだろう。

痛みを感じたことのない人間がいるはずがないのに

振り上げた手足を、吐かれたことのない言葉を、とても容易く、他人に振り下ろして浴びせられる人間がいるんだ。

怖くはないけれど、恐ろしいです。

普段の一面を知っているから、尚更。


表裏のない人間になるのは難しいけど、たとえばたくさん面を広げて展開してみたときに、誰かに隠さなければいけない一面があるような人間に、俺はなりたくないと願うのは、綺麗事でしょうか。


自分が、心までまっさらで綺麗な人間だとはいいません。

だけど、俺に手を振り上げて足で蹴り上げてくる人達よりは、ずっと綺麗な心を持っていると思うんだ。


それなのにどうして、俺より汚れた心を持ってる奴らの方が強いんだ。

なんて、そんな浅ましいことを考えてしまうから、いつまでも俺は、弱いのかもしれません。


この手紙を受け取る頃、俺がどうしているのかを、ヒサコさんだけはわかっているのかもしれないな。


耐えきれなかった弱いやつだと思ってくれて構いません。

大切な命を粗末にしたのだと解釈してくれて間違いありません。


それでも、俺は。

最後まで、綺麗な心でいられたのだと思います。


弱さは強さに敵い、優しさは怒りに勝る。

ヒサコさんの言葉の中で、これがいちばん頭に残っています。


最後に、やっぱり、この手紙は取っておいてください。

胸クソ悪いことばかりだけどヒサコさんに支えられていた部分は、とても大きいから、ずっと、形として残っていてほしいと願います。


最後の最後に、明るいことを書いておこう。

ヒサコさんの髪色、俺はすごく好きです。

あんまり、俺の周りにはいないタイプのばあちゃんだから、すごく新鮮で、すごく楽しくて、すごく面白かった。

ありがとうございました。

どうか、お元気で。


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