「上がっていらっしゃい。こうちゃんも」


よく家に上がるのかコウトくんのお母さんとはその場で別れて、斜め向かいの家に入っていった。

キョウが出てきた垣根の隙間をくぐって中に入るコウトくんにならうわけにはいかず、ヒサコさんに門を開けてもらう。


表に面して開け放たれた縁側から我が家のように慣れた様子で室内に上がったコウトくんにキョウがついていく。


「あの……」


ここへ来た理由を話さないといけない。

見ず知らずの人間を家に上げる不用心さを少し心配しながら、背筋をピンと伸ばして歩くヒサコさんの後を追いながら声をかける。


「アキラって知ってます?」


口をついて出たのが夏哉ではなくアキラであったことに自分で驚いていると、ヒサコさんはオシャレなフレアスカートの裾を翻してこちらを向いた。


「夏哉くんの話してた子かと思ったのだけれど……あきちゃんのお友達?」

「あ、はい。えと、夏哉のもわたしだと思うんですけど」


思わぬところで繋がっていた糸に、見事に引っかかってしまったわたしの頭の中はこんがらがっていた。


表札にあったヒサコさんの名字『荒木』にまさかと思い孫がいるかと尋ねると、ハルキと聞き覚えのありすぎる名前が飛び出してきた。

それなら、と口にしたアキラの名前に、予想通りの反応。

コウトくんは向かいに住んでいるだけでヒサコさんと血縁関係はないらしい。


どうして手紙を送る相手がここまで偏るのか、わからないけれど。


「ふふ、びっくりした?」

「え……?」

「あきちゃんとこうちゃん、夏哉くんと関わりがあるんでしょう。私も知らなかったのよ」


どういうことだろう。

縁側に座るように促されて、肌寒い風と麗らかな陽気に一旦急く心を落ち着かせる。


「夏哉くんは午前中にしかここへ来なかったから。一度あきちゃんが通りかかったとき、隠れてたのは見つかりたくない理由があったんでしょうね」


差し出されたお茶請けを手に載せて、見つめる。

部屋の奥から仏壇の鐘の音が聞こえたあと、コウトくんが慌ただしくこちらへ戻ってきて、わたしの背中に抱きつく。


「あきくんのはなししてるー!」

「そうよ。こうちゃんはあきちゃんが好きだものねえ」

「おばあちゃんもだいすき! とうかちゃんとー、なつくんとー、あきくんと、はるくんもすきだよ!」


矢継ぎ早に並べられた名前にわたしがいることに胸の辺りがほっと熱くなる。

これまで気付かなかったことに気付いたのも、同時だった。


「四季……」


春夏秋冬。

季節の文字ではない人もいるけれど、ぴったりと揃う名前に柄も知れぬ感動が浮かび上がる。


「なあに、しきって」

「はる、なつ、あき、ふゆって。」

「あー!ほんとだ!」


身振り手振りで伝えると、コウトくんも興奮してきゃーきゃーと騒ぎ始める。


こんな偶然があるんだ。

別に、だからって何もないけれど、すごい。