「キョウちゃんもただいまー!」


にいーっと笑うコウトくんが猫の顔を覗いて言うと、猫も返事をする。

驚いて持ち上げたはいいけれど行き場をなくした手をどうしようも出来ずにいると、道の向こうから早歩きでやってくるコウトくんのお母さんが見えた。

ぺこり、と遠巻きに頭を下げると、わたしのことを覚えていたようでホッとしたような笑みをこぼしていた。


「そうかなっておもったらほんとうにそうだった!」


ぎゅうっと抱き着いてくるコウトくんの髪を撫で、こちらに来たコウトくんのお母さんと話をする。

突然走って行ったから驚いた、というから苦笑いを返した。


「あれ……でも、コウトくんってこの辺りに住んでるの?」

「そうだよ」


今度はわたしの周りをくるくると回り始めたコウトくんに説明を求めるのは難しくて、困惑しているとお母さんが教えてくれた。

コウトくんの保育園を探したときにあの幼稚園と併設のところしか受け入れてもらえず、そのまま通っているらしい。


わざわざ2駅も向こうの幼稚園に通うのは大変だろう。

園バスでこちらの駅まで送ってもらうこともあるらしいけれど、動きたがりで遊びたがりなコウトくんを連れて、あの公園に行くことも多い、と。


「キョウちゃん、かわいい」


毛並みを逆撫でされても大人しくしている白猫は、キョウ、というらしい。


「とうかちゃんもなでていいよ」


コウトくんの許可をもらってキョウに指先を差し出すと、鼻先で匂いを嗅いだあと、顔を擦り付けるようにされた。

ゴロゴロと喉を鳴らす様が可愛くて、夢中で撫でていると、コウトくんがパッと顔を上げる。


「おばーちゃん!」

「あら、こうちゃん、おかえり」


しゃがんでいたわたし達には気付かなかったのか、声をかけられて初めてこちらに人がいることを確認したらしい声が上から降ってくる。

顔を上げると、垣根の向こうからこちらを覗く老婦人がいた。


紫がかった短髪のパーマに、唇を強調するように指された紅、すらっと高い背丈は腰が曲がっていないこともあってわたしの背とさほど変わらないと思う。


「……ヒサコさん?」

「そうよ」


どうして知ってるの? という顔をしながらも怪しむ様子を見せない。

かわいいおばあちゃん、とメモには書いてあったけれど、想像とはちがう髪色を初めとしたパワフルな印象に目を丸くする。