何も無い平坦な地面に立っていると、蟻地獄のように足元が攫われていくような不安があった。

山間に向かって落ちていく太陽がまだいる間に、電車待ちで調べたヒサコさんの家に向かう。

いつも、アキラが帰っていく方向へ向かって歩いて行くと、新興住宅地とは違う既存住宅地のような場所に入っていった。


途切れ途切れに並ぶ塀の合間を通って、携帯から顔を上げる。


荘厳とした雰囲気の門構えに、わたしの胸元ほどの高さに揃えられた垣根。

決して広い敷地ではないけれど、横長の日本家屋は静まり返っていた。

インターホンはモニターのついていないボタンだけのもので、なんとなくそれを押していきなり人が出てくるのは緊張してしまうから、と垣根の上に首を伸ばして庭を覗く。

縁側の戸が空いているから、たぶん人はいるのだと思う。

野菜の植えられた小さな畑のような場所に目をやると、小さな青と赤の瞳がこちらを見つめていた。


「猫……?」


じい、と見つめ合うのは、しなやかな尻尾をくゆらせて髭を横にピンと伸ばした毛艶のいい白猫だ。

ちりめん柄のスカーフのようなものを首に巻いていて、左右でちがう瞳の色に吸い込まれてしまいそうになる。


目を逸らすタイミングがないまま、猫と見合って数分。

先に興味を無くしたのは猫の方だった。

こちらに向かってひと鳴きし、ここからでは見えなかった垣根の隙間から道路へ出てくると、わたしの足に頭を擦り付ける。

タイツに白い毛が絡むのを見下ろしていると、思いがけず飛び込んできた影がいた。


「とうかちゃんだー!」

「っ、え!?」


わたしの腰の辺りに手を伸ばして、猫のいる側とは反対からぴったりとくっつくのは、コウトくんだ。