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ナオキへ


なあ、これ四通目なんだよ。

手紙の冒頭ってどう書くのが正解なんだろうな。


今更だけど、この手紙は恙無く手元に渡っているんだろうか。

冬華のことを信じていないわけではないけど、ユリとはどうしても、一筋縄で行かなかったと思うから。

桜の花が咲く前くらいにナオキの手元へ渡っていることを願います。


なあ、はっきり言ったことも聞いたこともなかったけどさ。

ナオキの大学の非常勤講師。

サカキって人、俺の親父だよな?

前にカリキュラム見せたもらったときにフルネームで見たから、間違いないと思う。


こんな偶然、ある?

俺、すげえびっくりした。

驚かせてやろうと思ったんだけど、よく考えたらそんな大したことでもないし、言うタイミング逃してたからここに書いておきます。


最後に一度、あの島に行きたかったな。

ナオキの操縦する船、親父さんのより危なっかしいけど、落ち着くのはナオキの操縦する船だった。


楓さんと先生によろしく。

楓さんには、結婚おめでとう、と伝えてください。

先生には、そうだな。

腰を大事に。いつまでも健康でいてください、と伝えて。


ナオキには何を伝えたらいいだろう。

俺のことはほとんど教えていない割に、俺はナオキのこと、結構知ってるよな。


俺、やっぱり楓さんに伝えるべきだと思う。

自分の気持ちは自分のものだからって言葉に、俺も少し救われたけどさ、想われるやつは想うやつの気持ちを知るべきなんだよ。

だって、気持ちはそんなに簡単に宙ぶらりんになれないから、いつまでも引っ付いて回るそれを楓さんにも少しくらい分けてやれよ。


楓さんは鈍いけどって、ナオキは言ってたよな。

でも、たぶん、気付いてるよ、あの人。

あんだけ熱烈なアプローチされて気付かないなんて、ないだろ。


いいのかよ、このまま、行かせて。

何も言えないまま、伝わらないままでいいのか。


なんて、俺にも出来なかったことをナオキに説教する気はありません。


けど、もし、俺の残す言葉が、あと一歩分の背中を押すのなら、言うだけ言っておこうと思いました。



初めて診療所に行ったとき、言ったよな。

「カエデ、どう思う?」って。同じことを聞きます。


冬華のこと、どう思う?


この返事は俺、聞けないから。

代わりに、あのとき答えられなかった質問に答えます。


冬華の好きなところ。

ぜんぶが好きです。

好きなところも、嫌いなところも、ぜんぶ好き。

嫌いなところは、あんまり俺に構ってくれないところだな。


誰よりも大切な人なんだ。

冬華さえいてくれたらいいと思えるほど。


ふたりきりの世界で生きていけるのなら

それがいちばん、幸せだと思えるほど。


ふたりきりの世界なんて、すぐに生きていられなくなるんだろうけど、お互いのことだけ考えられる時間が俺は欲しいんだ。


俺のこと、淡白だとか欲がないとか好き勝手言ってくれたけど、実はこんなに強欲なんだ。


ナオキこそ、自分のことを欲張りだなんて言うくらいなら、これくらい言ってみろよ。


どうにもならない恋かどうかは、お前だけで決めるもんじゃねえだろ。


じゃあな、ナオキ。

冬華が、おまえの薄っぺらい友だちの中で、俺と同じくらいの位置にくることを願ってます。



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