帰ってきたその日に夏哉の家を訪ねて、夏哉のお父さんにナオキのことを話した。手紙のことは伏せるべきかと迷ったけれど、わたしとナオキの繋がりを説明するためにすべて伝えた。

夏哉のお父さんの方からナオキを家に連れてきてほしいと言われたから、登録された番号に連絡をすると二つ返事で快諾された。


五日後。

駅の改札口を出たところにナオキを見つけた。


「お、冬華ー!」


向こうもわたしの姿を見て、ぶんぶんと手を振る。

そこそこ人がいる構内で大声を出すのはやめてほしい。

周囲の視線から逃れるように足早にナオキの元へ近付き、その肩を力任せに引っ叩く。


「痛っ! え、なんで俺叩かれた?」

「お願いだから、静かにして。喋らないで」

「いや、それは無理だって」


意識して声を張らなくても響き渡るって、得なのか損のかわからない。

案内らしい案内をするほどでもない辺鄙な町並みを横に、住宅街へと入る。


「でけー家がいっぱいだ」

「感想下手すぎ」


住宅街なんてどこもこんなものだろう。

でかい家ならこの上の道を進んで行ったところにもっとたくさんある。


わたしの家、ユリの家を通り過ぎて、この辺りではいちばん大きな角地の家の前で立ち止まると、ナオキは口をあんぐりと開けて、左右上下を見渡す。

表札に書かれた名字が間違いなく【 榊 】であることをわたしに指を指して示し、興奮気味にこちらを見る。


「で、か、い!」

「なんなのその反応……」


さっきわたしが言ったことを一応覚えているのか、声を潜めながらも、わーとかすげー、とかそういうのが全部漏れている。


家の中でまでそんな反応はしないでくれよ、と心の中で祈る。

ナオキにはもう伝えてあるけれど、わたしはふたりの話に同席しない。

なんとなく、その方がいいかな、と思った。


わたしの前だから聞けない、そんな内容はないだろうけれど、夏哉のお父さんも夏哉の自殺した理由は知らない。

その憶測を聞いて、話半ばで否定しない自信がないし、カエデさんから聞いた話を割り込んでしまうかもしれないから。


インターホンを押して、あとはまかせる、とその場を離れる。

ナオキの困惑した声が背中に追いかけてくるけれど、応答したらしいインターホンの先に向かって挨拶をしている様を尻目に自宅の方まで戻る。