帰りの船の上で、背中に受けるユリの視線が痛かった。

結局、ふたりと離れてから1時間以上が経っていたらしく、わたしを迎えに来る前にふたりを家に入れていてくれたナオキに感謝した。


対岸で船を下りると、ナオキが駅までついて来てくれた。


「じゃあな。気いつけて帰れよ。冬華にはあとで連絡しとく」


無人駅には改札がないから、ホームのベンチで別れる。

ひらりと風のように去ってしまったナオキの背中は、海岸の方へ消えて行った。


ひとつしかないベンチの真ん中に腰掛けて、コツコツとヒールを鳴らすユリの圧力に耐えられず、アキラの横に隠れると、それを見て更に機嫌をそこねたようだった。


1時間に1本しかない電車が運良く20分ほど待ったところでやってきて、二両編成のシートは行きと同じ形だったけれど、ユリはわたしとアキラとは別の車両に乗ってしまう。


「ね、アキラ……ユリの方に」

「行かねえから。もういいだろ、好きにさせとけば」

「なんかあったの?」

「おまえのこと、延々と話してたぞ」


それは、なんというか。

ユリが話すわたしのことなんて、気分のいいものじゃなかったと思う。

あまり長く待たせたから、ユリも苛ついていたのは仕方ないとして、アキラもストレスをためているのだと思う。

顔には出さないけれど、ユリを擁護するようなことも言わない。


「で、おまえの方は?」

「へ……?」

「へ? じゃねえよ。手紙の相手、ナオキで合ってたんだろ。次はどこなんだよ」

「あ、ああ……それなんだけど」


鞄の中から取り出した未開封の手紙をアキラに見せると、呆れたようにため息をつく。


「このチキンが」

「ちがうよ! 色々事情があったの」

「おーおー、聞かせてみろ。さぞかし深いんだろうな、その事情はよ」


仮にも年下とは思えないような態度でふんぞり返るから、わたしも少しトゲのある言い方で説明をしていく。

不確かなことでも知っていたい、というのはわたしの主観でしかないから、カエデさんに聞いた話のことは伏せた。


「じゃあ、あいつ来るんだ?」

「うん。今日にでも夏哉のお父さんに話に行こうと思ってる」

「ひとりで行けるんだろうな。俺、ついてけねえけど」

「大丈夫だよ」


アキラはここまで過保護だったかな。

ここ最近のわたしの情緒を見ていたら、安心させられる人間に思われていないことはわかるけれど。