「夏哉が……」
自惚れみたいで、重いし、言いたくなかったはずなのに。
夏哉がわたしにくれたものは、限りなく透明で、羽のように軽くて、わたしを救ってくれたことを思うと、言わずにはいられない。
「わたしのことを、とても大切にしてくれたから」
わたしがきっかけでバスケに道を絞ったこと。
きっと、夏哉をいちばん不安にさせた出来事でもあるあの日のこと。
夏哉の人生の節目にわたしがいて、いつも、わたしのいる選択をしてくれたこと。
夏哉が誰よりも大切にしてくれたわたしを、わたしも大切にしたいと思えたし、逆も然りだ。
「夏哉を大切にしたいって思う気持ちに、恋愛的な意味が必要なら、わたしは夏哉を好きって言うよ」
思わず、いらないことまで口に出してしまった。
さっき感じた、微かな疑惑を自ら明るみに出してしまって、慌てて口を引き結ぶけれど、遅かった。
「それは……なんか、違うんじゃ」
「違うよ。わかってる」
だから、いつもユリには敵わないと思っていた。
あの、弾けた炭酸のように騒がしくて、真っ直ぐな想いに張り合うだけのものが、わたしの中にはなかったから。
別のものでは勝っていたくて、けれどユリの想いと同じ色のものを、夏哉がわたしに向けていることに気付いてしまったから、同じ形で示したくて、好きになったんだ。
「だから、答えられないよね。どこが好きか、なんて」
霧の中に潜らせようとしたのに、暴かれてしまった。
ナオキのその強引さ、少しこわい。
わたしが押し負けやすいだけなのかもしれないけれど。
「ま、まあ……そういうのもあるよな、うん」
「正直なところどう思った?」
「……ごめん。根拠がそれなら、一緒にされたくねえって思った」
冬華、と声をかけられて、ナオキを見上げる。
顔中のシワを寄せて、それをどうにかしようとするように唇の端を下に落としたり眉を上げたりするけれど、結局複雑そうな顔に戻る。
「なんて言えばいいのか、わかんねえんだけど、さ」
「うん」
「恋ってそういう苦しみ方をするもんじゃねえから」
「そういう?」
「ああー!!ほんっっと、うまく言えねえ。なんなんだろ、なんか、冬華がすげえ、無理にしてるんじゃねえかって思ったんだ」
突然、頭を抱えて上を向いたかと思うと、太陽に向かって叫ぶ。
「ありがとうね」
根がすごく真面目な人なのだと思う。
適当に流してしまえばいいのに。
他人のことに本気で悩んでいたら疲れるよ。
あーだこーだ、と思案し続けるナオキを傍目に、わたしも太陽を見上げて、目を細めてみた。
地上にいたはずの太陽は、あんなにも遠い。