「冬華は人を好きになったこと、ねえの?」

「あるよ」

「夏哉? それとも、アキラ?」


どうしてその二択になるんだ。

片方は合っているけれど、自分も知っている人であることが前提ってところがナオキらしい。


「夏哉」

「えらくあっさり答えるじゃん」

「隠すようなことじゃないでしょう」


夏哉には一度だって伝えられなかったけれど。


「どんなところが好きだった?」

「初めての恋バナが見知らぬ男の人とだとは思わなかったな……」

「もう知り合いだろうが! つか、初めてって。友だちと話したりしなかったんか?」

「……友だち、いない」


自分で言っておいて、なんて寂しいやつだ、と思う。

でも、本当のことだ。

友だちなんていない。

現に、卒業式を終えて携帯の連絡先にクラスメイトの誰も残らなかった。


「ま、まあ……これからだよな! 俺とか、カエデとか! 友だちじゃん」

「なんか軽くない?」

「俺は話したら友だちみたいなもんだしなあ……だから俺、友だち500人くらいいるわ」

「その基準で500人だと少なく感じる」


話したら友だちって、聞いたことないよ。

珍しい価値観だな、と思う。


「で? 夏哉のどこが好きなんだよ」

「好きなんじゃなくて、好きだった、ね」


わざわざ訂正をした意味を深く追求されることもなく、早く早くと急かされる。


「…………」

「おーい、冬華? え、そんな悩む?」


「…………あれ」


歩きながら考えるから何も浮かばないのかもしれない。

足を止めて、顎に手を添える。

首を捻ってそれらしい仕草をしてみるけれど、何も浮かばない。


「どこが好きなんだろう」

「嘘だろ……すぐに出てこないくらいあんの?」

「いや、どうにかしてほしいって思うところはたくさん思いつくんだけど……」