笑顔のまま表情をかためたカエデさん。


「……え? どうして……」


会ったことがある、というのがどれくらいの頻度でなのかはわからないけれど、ナオキの話からして、たぶん1度や2度ではないのだと思う。

というか、カエデさんの口振りからして、島を出るのは結婚のためなのだろうけれど、ナオキは知っているのかな。


「もしかして、原因は怪我じゃない?」

「えっと……」


ちら、とドアの方を見遣る。

閉じ切られたドアはすりガラスになっていて、向こうには人影なんて見えないけれど、念のために廊下を覗き見る。

偶然そこにいられて話を聞かれていた、なんてことになると困るから。


カエデさんのそばに戻って、なるべく近くで小さく囁く。


「自殺、で……水死だったらしいんですけど」


またひとつ大きく目を見開いて、同じ言葉を繰り返す。

肯定の意味を込めて頷くと、カエデさんは膝の上に置いた手を握り締めて、何かを考えるように視線を床に彷徨わせる。


「あの……?」


その反応が妙に引っかかって、首を傾げる。

カエデさんは揺れる瞳でわたしを見上げて、さっきの囁き声よりも小さい、掠れた声を発する。


「体にアザとか……怪我がなかった?」

「え……? わからない、です」


顔の擦り傷なら見たけれど、体の傷までは知らない。


「なにか知ってるんですか?」


決して喜ばしい話でないことは、わずかなキーワードとカエデさんの蒼白とした表情からわかる。

けれど、もう、知らないのは嫌だ。

些細なことでも知っていたい。

それが、何の為にも、誰の為にもならないのだとしても。


「一度、ひとりでここに来たことがあったの。尚くんのお父さんが船渡しの日だったときに。そのときは、ただ遊びに来たわけじゃなくて」

「はい」

「お父さんが診たから、詳しいことはわからないんだけど、足、痛めてたみたい」

「それっていつのことですか?」


バスケをしていた頃のことだろうか。

だとしたら、どうしてここで診てもらったのか。


「一昨年の夏頃ね。ここで診てもらおうとしたってことは訳ありだったのかと思って」


一昨年の夏。

それこそ、次のキャプテンのことでわたしが夏哉から離れた時期と重なる。