「恋愛相談って、どういうこと?」

「ここに来るまでに白い外壁の建物があったろ」

「結構大きい、普通の民家と違う感じの?」

「そう。島の唯一の診療所なんだよ。そこに寄って戻ろう」

「用もないのに寄れないよ」

「用ならある」


それ、とナオキが指さしたのは、わたしの手だった。

小指の下のところに、何かで擦りむいた跡がある。


「船に乗るときか、降りるとき、どっちかわからないけど擦ったんだろ」

「や、でもこんなの、放っとけばいいし」


めくれた皮を撫でつけるとピリッとした痛みが走る。

新しく滲んだ血を指先で拭おうとすると、ナオキの手に止められた。


「手当てしてもらえって」

「ええ……」

「行くよな?」


静かな声音に圧が滲んでいるのを察して頷くと、ナオキはわたしの手を引いて立たせてくれた。

ずっと座っていたせいで、お尻の形にへこんだ部分を砂が流れていく。


「結構歩いたろ。知らない土地でうろうろするのは得策じゃねえぞ。ここは一本道で繋がってるからいいけど」

「うん。真っ直ぐ歩いてたから気付かなかった」


きっと、もっとはやく歩けるはずなのに、ナオキはわたしの歩調に合わせてくれていた。


「聞いていい?」


道すがら、潮風で軋みベタつき始めた髪が頬に張り付くのを避けて訊ねる。


「夏哉とはいつ知り合ったの?」


コウトくんも、アキラも、その辺りは詳しく聞いていなかったから気になった。

ここ1年辺りの話だと思っていたのだけれど、ここまでの距離を考えて、そんなに頻繁に来られたわけではないのだろうし。


「んー? いつだっけな。俺が1年のときだから……2年半くらい前か」

「今、3年生?」

「そう。もう4年になるけど」


わたしはこの春で卒業したけれど、ユリにもアキラにもあと1年、同じ場所で過ごす時間がある。

ナオキもそうなんだ。

偶然だろうけれど、新しい環境に飛び込むのはわたしだけなのだという寂しさが少しだけある。