「冷えるぞ、こんなところに座ってたら」
背後から影が伸びて、縮こまったわたしの体はすっぽりと覆われる。
覚えたばかりの声を辿って顔を真上に向けると、わたしとは反対に頭上から真下を覗く人がいた。
「……船頭さん」
「え? センドー? ああ、船頭な。よくそんな言葉知ってんなあ」
焼けた肌に茶色みがかった唇。
笑うと覗く白い歯のコントラストが綺麗で、人の顔面だというのについまじまじと見つめてしまう。
「名前でいいよ」
「……ナオキ、さん?」
「呼び捨てでいい」
不意に懐かしむように目を細めて手を伸ばしてきたかと思うと、がっしりとボールを掴むみたいに、髪を掻き回される。
夏哉もアキラも手は大きいけれど、バスケットボールを片手で掴むことはできなかった。
この人なら、できるんじゃないかな。
体を捩って避けたあと、宙に置き去りになった手と、頭に描いたバスケットボールを重ね合わせる。
「ああ……」
じりじりと近付き、手のひらを見て落胆する。
この人、手がすごく乾燥してる。
これだとたぶん、するんと滑ってしまうんだろうな。
湿り気のある手ならもしかしたら、出来たかもしれないのに。
「え、なに?」
「なんでもない」
自分の手を頭上にかざして裏返したり表を向けたり。
見たってわからないでしょう。なんのことなのかも。
太陽に重なった手のひらに、流れる血潮を見ながら、わたしも同じように手のひらを空へと伸ばす。
「榊夏哉って知ってる?」
世間話のように、誰でも知ってるニュースをとりあえず確認するみたいに、訊ねてみた。
「……は?」
ユリの反応からして、ナオキが四通目の手紙を受け取る人なんだろうなということはわかっていた。
たぶん、それは間違ってなんていなくて。
瞬きすら忘れて呆然とこちらを見遣るナオキの声音は、夏哉という人間を知った上で、困惑しているようなものだった。