「夏哉は? 夏生まれ予想だけど」


「夏くんはねー」
「夏哉は」


たぶん、『 夏 』の二言のどこかで差はあったけれど、ほとんど同時に声を発した。

今、アキラと話をしていたのはユリだ。

わたしがしゃしゃり出る場でないことはわかっていたはずなのに、反射的に答えてしまった。

同時だったことに怯んでわたしは口を噤んだけれど、ユリはそのまま続けた。


「夏くんは冬生まれ。12月7日」

「へえ。なんでまた。どういう意味なんだろうな」

「さあ? 聞いたことないからわかんない」


内側に巻いたくちびるを解いて、息を漏らす。

ユリは知らないんだ。

マウントのようで嫌だけれど、その意味は本当に特別なものだから、知っていてほしい。


「夏哉の、お母さんが好きだったからだよ」


夏哉のお母さんは体が弱くて、冬に夏哉を産んだあと、夏を迎えられるかわからなかったという。

けれど、夏哉とともに夏を迎えて、当たり前のように越えた夏が六度目に差し掛かる前に、亡くなった。


「……知らなかった」


ユリの呟きを区切りに、三人での会話は途切れた。

真正面の窓から射す明かりが、ふわふわとした埃をきらきらと照らした。

映画館で後ろの方の座席に座ったときに、ちょうど映写機の前を見上げたときのような、真昼の星空のような光景が目の前にある。

足元の暖房と陽光と、アキラに触れる肩のぬくもりが心地よくて、うとうとと船をこぐ。


短かったり、長かったり。

等間隔でない停車のアナウンスの度に瞼を押し開けては伏せてを繰り返す。


そのうち、アナウンスの音声が遠退いていって、聞こえなくなった。