「そもそも、面と向かって夏哉に好きって言ったことがない」
「うっわ……」
告白も出来ないまま相手がいなくなったことに対してのリアクションだろうか。
こちらも反応に困るような顔をしないでもらいたい。
妙な勘違いを訂正はせずに良い様に使わせてもらうことにした。
さっさとこの話題は切り上げて、本題に移る。
「土曜日、暇?」
「暇じゃない」
「そっか」
部活がないのなら大抵は空いているって考え方がもう染まっているということなのかもしれない。
あっさりと引き下がったわたしに、アキラは何故か面食らったような顔をしたかと思うと、ガシガシと自分の髪を掻く。
「回りくどいんだよ。言えよ。一緒に来いってことだろ」
「なんでわかったの」
「わかるわ。馬鹿にすんな」
鼻を鳴らしてそっぽを向いたアキラは、わたしが否定もせずにいると、ちらりと視線を戻す。
様子を伺われているのが丸わかりでくすぐったいような気がした。
思わず口端を上げて笑うと、アキラは携帯で時間を確認して、あっと声をあげる。
「やべ。俺帰る」
「引き止めちゃったもんね。ごめん」
「べつに。土曜何時?」
「八時なんだけど、方向もわからないから一度こっちの最寄りに来てくれる?」
「りょーかい。すぐ電車来ると思うけど、気を付けて帰れよ」
気障っぽく後ろ手を振って、アキラは去っていった。
湿っぽくて陰気な場所にいると気分まで滅入るようで、わたしもすぐあとを追ったけれど、どの方面に向かったのかもわからない。
連絡が途切れたり、アキラがここの中学を卒業したら、きっともう会えなくなる。
わたし達の関係は、そんな細っこい糸でしか繋がれていない。
ユリだけは例外だったけれど、夏哉がどれだけお膳立てしたって、わたしはあの子と仲良くなれない。
壊れてしまったものは元には戻せなくて、似た形のものに修復されることを望まないのなら、ずっと歪なままだ。