ユリに手紙を渡した翌日、電車で隣町に向かった。


夕方五時前、駅の裏手にある公園の隅に、ざりざりと荒く砂を踏みしめる音がふたつ。寒空の下、袖を丸めて息を潜めているこの時間が、最近のお気に入り。


いつの間にかアキラと春輝くんのフリースロー勝負は終わっていて、今はぽんぽんとボールを投げあっている。肩だか足だか、それすらはっきりとは聞いていない春輝くんの怪我を気遣ってか、アキラは胸よりも上からのパスを投げていない。


春輝くんの手にボールが渡ったタイミングで、今日はもう切り上げることにしたようだ。

冷たくなった汗を拭いて、春輝くんが跳ねるようにベンチに向かってきた。


「アキラ、学校にボール返しに行くって」

「ドリブルしてたもんね」


アキラの自前のボールは天然皮革の結構いいやつで、野外でのドリブルは禁止と毎回春輝くんに念を押している。

今日使っていたのはゴム製の屋外用のボールで、遠慮なくドリブルをしていたから、借り物だということはわかっていた。


アキラはいつも学校が終わると一度家に帰って、着替えを済ませてボールとタオルと飲み物だけを持って公園に来るのだけれど、今日はバスケ部の練習がない日らしく、放課後そのまま春輝くんとここへ来ていた。


「俺、先に帰るけど、おねーさんはどうする?」

「わたしは待ってるよ。荷物置いて行ってるし、アキラに話したいこともあるから」

「それ、俺も聞いてちゃダメな話?」


いつもは上向いている春輝くんの金髪の毛先は、汗でぺたりと張りついて垂れ下がっている。

そこに眉と目尻まで下げて訊かれると、図体に似合わない仕草に、つい狼狽えてしまう。


「ダメ、じゃないけど……」


春輝くんは夏哉のことを知っているのだろうか。

もし顔見知りでないのなら、亡くなった人の話から入るのは少し重い気がするし、手紙に関係のない人を巻き込むのも違うように思える。

内輪の人間だけでこの流れを終わらせたいというわたしの我が儘で、この間まで面識もなかったアキラにこうして会いに来る理由が気になるのも当然のこと。

誰かを除け者にするつもりはないのだと、一緒にアキラを待っていてもらおうと口を開くよりも先に、春輝くんが緩く首を振る。


「ああ、いや、おねーさんを困らせたかったわけじゃないんだ。アキラとおねーさんのことだから、俺はいいよ」


気を遣わせてしまったのか、春輝くんはエナメルバッグの肩ひもを担ぎ直して、手を振って行ってしまった。