リハーサル通りに進む式の最中、ずっと五つ前の席を見ていた。

等間隔に並んでいる前の人たちの頭や肩が、その席で一度途切れるから、六つ前の席の背中はやけに広く見えた。

昨日のリハーサルのときにも空いていたその場所は、夏哉の席だ。


卒業証書授与、の声が遠くに聞こえる。

夏哉の名前は特別に最後、なんてことはなく、このクラスに紛れて、一生徒として呼ばれた。

少しだけ、校長先生のタメが長かったような気はするけれど、たぶん勘違い。

アカツキくんが二度目の壇上で夏哉の卒業証書を受け取る。

アカツキくんが深く頭を下げたあと、それに続くように生徒達が頭を下げる中、わたしは前の人に続いて壇上に向かっていた。


夏哉の名前が弾かれることなく卒業生として呼ばれたって、彼はここを卒業することはできない。

ここにいる人たちが、ぴしりとしたスーツであったり、今よりも自由な服装を選ぶ未来の後ろで、夏哉は制服のまま佇むのだろう。


置いていく側、置いていかれる側。

その線引きが、この日、この場所にある。

越えられない、その線の向こう側。


この薄っぺらい紙を受け取ってしまったら、そちら側には行けないような気がした。

躊躇いとは裏腹に、昨日と同じ順序で卒業証書を受け取る。

人が多いから、テンポよく進むのだ。

わたしで途切れさせるわけにはいかない。


指先に力を入れていないと、こんな軽いもの、歩く振動で落としてしまいそうだった。

空いた夏哉の席の横を通る間際、一瞬足が止まりかけたけれど、すぐに五席後ろへと歩き出した。