最後に会った夏哉は、今思い返しても気付けることなんてないくらい、いつも通りだった。
なにかを隠していたのかもしれないのに。
それに気付けるのは、わたしだけだったかもしれないのに。記憶にも手のひらにも、何も残っていない。
「で、あんた、何しに来たんだよ」
「え?」
「俺とあんたに接点はないのに名前だけで探しに来たってことは、夏哉が何か残してたとかそういうのだろ」
「そう、手紙……」
ここに来た目的はまだ一言も話していないのに、そこまで察してしまえるの洞察力に驚く。
アキラなら、些細な変化にも気付けたのかもしれない。
わたしが見過ごしたかもしれない、何かに。
もう何もかも手遅れなわたしたちが、その代わりに掴めるものがあるのなら、もうひとつも取り零したくない。
カバンの中で指先を掠めた封筒を取り出す。アキラに手紙を渡すと、わたしが昨日したことと同じように、陽に透かし見た。
「これ、宛名ないけど。俺でいいの」
「読めばわかると思うけど、ちゃんとアキラへの手紙だよ」
「ならいいけど」
その場で封を切るアキラの手元を覗くように横に並ぶと、なんだこいつ、という目を向けられたけれど、横にいることを許してくれるようで、手紙を読み始める。