まるで、用意された筋書きのような二人目の指示は、憤りにも似た虚しさで頭に入って来ない。それでも、最後の付け足しが引っかかる。
『公園』
さっき、コウトくんの手紙にあった公園と同じ場所のことを指すのだろう。
思い出すどころか、場所の見当もつかない。心配そうな顔でわたしの背中を撫で続けるコウトくんに頼むしかない。
「コウトくん、この公園ってどこにあるの?」
「こうえん?⠀かわのちかくだよ。あぶないからおとなといっしょにいかないとだめなんだけど、なつくんといっしょにあそんでたところ!」
「そこに連れて行ってくれないかな」
コウトくんは、二つ返事で笑って了承してくれた。
しばらくしてコウトくんを迎えに来たお母さんには、夏哉の幼馴染みだと伝えると、それだけで納得してもらえた。夏哉のことは、自殺しましたとは言えなくて、遠くに引越しをしたと誤魔化したけれど、苦し紛れのそれについて、詳細は何も話せなかった。
コウトくんに手を引かれ、幼稚園から徒歩十分ほどかけて川の近くまで来たとき、断片的な既視感を覚えた。
「こっち!」
アスファルトの河川敷のそばには芝生が広がっている。錆びた鉄棒とブランコがあるだけの寂しい小さな公園を横切る辺りで、また何かを思い出しそうになるけれど、形を成さずにほろほろと崩れていく。
何気なく視線を投げた向こう岸は、夏哉がいた場所。
そして、いなくなってしまった場所だ。
ずっとその一点を見つめていると、心がざわついて、柄も言われぬ不安が押し寄せてくる。
コウトくんと繋いだ手に、少しだけ力がこもる。段々と足元しか見られなくなって、ペースの落ちていた歩みを止めた。
「とうかちゃん?」
わたしを呼ぶコウトくんの声に答えられずに、瞼を閉じる。古い記憶で曖昧だけれど、わたしはこの場所を知っている。目を開けると、わたしの手を解いてコウトくんが駆け出した。
「なつやくんとかけっこしたのがここ!」
アスファルトに引かれた白線につま先を合わせ、こちらを振り向く。
合図を待っているようにそわそわと足踏みをするコウトくんに、パンッと手のひらを打ち鳴らしてあげると、フライング気味に走り出して行く。
その小さな背中に似た姿を、ずっと昔にも見たことがあった。
わたしは今よりもずっと背が低くて、からだも小さくて、それこそコウトくんと同じくらいの背丈の頃。
五十メートル間隔で引かれた白線を跨いだところで、コウトくんがわたしに向かって手を振る。その後ろで、鉄道橋の上を走る電車が大きな音を轟かせた。コウトくんは驚いて飛び上がったけれど、すぐに笑みを浮かべ直して、今度はこちらの白線に向かって走って来た。