手紙を読み終えたとき、コウトくんは目を真ん丸くして、夏哉の名前を呟いた。手紙の内容はいまいち噛み砕けていないらしく、困ったようにわたしを見上げる。

小さな顔に、大きな目。何も言えずに見つめかえしていると、だんだんとその瞳が潤んでいく。なにがコウトくんを不安にさせたのか、きゅっとコートの端を掴まれた。


「…とうか、ちゃん?」


無垢な瞳が、純粋な心の持ち主が、夏哉の手紙をどこまで理解できたのだろうか。

この手紙の中には、わたしの知らない夏哉がいて、夏哉だけが知っているコウトくんがいる。


「なかないで、とうかちゃん」

「え……?」


泣かないでって、だって、わたしは泣いていない。

まさかと思って目元に手をやってみても、乾いた肌をなぞるだけ。


「ぼく、とうかちゃんのことしってる。なつくんにきいたことある」

「え、ちょっと待って。なんのこと?」


聞いたことがあるって、一体いつの話だ。

コウトくんは、夏哉が家族にもわたしにも内緒にしていた友だちなのに、わたしのことを知っている理由が分からない。


「なつくんの、たいせつなひとなんでしょ?」


記憶のままを口にするように、そんなことを聞いてくるから、わたしの頭がついていかない。


大切な人。

その言葉が、幼馴染みだとか、そういう意味だとして。

どうしてそれをコウトくんに伝えたのだろう。


手紙の内容にある『最近忙しくて』という文面を文字通りに受け取らずに、自分が死ぬための準備のことを指しているのだとしたら。考えただけで、胃の中のものが押し上がってきそうになる。唯一答えを知っている夏哉本人に問い詰めることもできない問答は無駄だと分かっているけれど、様々な憶測が頭を過ぎっていく。


コウトくん宛の手紙の封筒からもう一枚の紙を取り出す。最初のわたし宛の封筒に入っていた地図とはちがう、メモ用紙を適当な大きさに裂いたものだった。

二つ折りにされたメモには、手紙よりも荒い筆跡で書き殴ったようなメッセージが綴られている。


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二人目はアキラ。

南中の生徒。二年生な。

俺の名前を出せば、アキラも話は聞くと思う。

もし逃げようとしたら引っ捕まえていいから。


P.S あと、思い出したならいいけど、何のことかわからないなら、コウトに公園に連れて行ってもらえよ。


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