「久子さんのところに行ったんだろ。つか、最初が洸斗だったこと、俺聞いてねえよ」

「知り合いだと思わなかったから、言わないよ」

「……なんか、ムカつく。夏哉に嵌められたみたいだ」


言い終えるタイミングで、アキラは少しだけ顔の距離を取る。

反射的に、わたしはアキラの背中を掴み直してしまったのだけれど。


「6通目はわたしの高校の先生だったよ。いちばん最初に、夏哉からの手紙を渡してくれた人。巧妙だよね、あいつ」

「詐欺師に向いてんじゃねえの」


軽口を叩きながら笑い合って、夏哉からの手紙を持っている方の手を膝の上に戻す。


「今日に触れたいんだって」

「は? なにそれ」

「コウトくんと、アキラと、ユリと、ナオキと、ヒサコさんと、朔間先生と……」


頭の中で指折り数えて、夏哉のトモダチを挙げていく。


「それから、わたしの今日に」


目を閉じると、夏哉の姿が浮かぶ。


インサイドアウトが得意で、中学の試合では夏哉がそれを披露するたびにギャラリーの観客が沸いたものだ。

一時期、ボールに回転がかからなくなって悩んでいた夏哉に、スナップの効かせ方だとか、指の力具合だとか、知識としてしか知らない付け焼き刃のアドバイスを送ったことがあるけれど、夏哉はそんなことぜんぶ、知っていたはずだ。

スリーポイントシュートは苦手だったけれど、レイアップシュートは百発百中だった。

スローインは投げるよりも受け取る方が得意で、自分に飛んできたボールは必ず取るという精神が、夏哉の強みだ。


夏哉との日々が、明日はきっと明るいことを教えてくれた。

夏哉との時間が、明日はきっとあたたかいことを証明してくれた。

夏哉が、明日を優しい日にしてくれた。


何か、劇的なことがあったわけじゃない。

わたしが何気なく放った、夏哉の中にずっと消えずにいた言葉のように、ただ夏哉が居るだけで、世界は変わっていった。


『生きていよう、冬華』

『大丈夫、冬華』


確かにわたしに届くように。

誰かに宛てた言葉だと勘違いをしないように。

夏哉はいつも、言葉の最後にわたしの名前を呼んだ。


地上の太陽が笑うたびに、とても嬉しかったこと。


ぜんぶ、ぜんぶ、覚えている。