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冬華へ


旅は終わりましたか。

旅を終えた冬華の手元にこの手紙が残ったのなら、最後に託したのが先生で良かったと俺は思います。


洸斗、章、由梨、尚樹、久子さん、朔間先生

みんな、俺の友だちになってくれた人たちで、ずっと、冬華に紹介したかった。


こんな形になってしまったけど、冬華とみんなの縁が繋がって続いていくのなら、俺の願いは叶うということ。


ここまでたどり着いてくれてありがとう。

答え合わせにはならないかもしれないけど、ずっと、冬華には言えなかったことを書こうと思う。


中学2年の5月25日。

なんの日か覚えてるか?

冬華がいなくなった日だよ。


テトラポットの隙間で青白い顔して動かない冬華を見たとき、頭が真っ白になって、心臓が止まるかと思った。

いちばんに母さんのことが浮かんで、そこからはもう、ただ必死だったな。


だけど、あの後の冬華を見て、引き留めてしまったことが、本当に正しいのかわからなかった。


生きたくないと願うほど、生きるのが辛いなら、俺はたとえ冬華でも、止めたくなかったんだ。


なんであの日、冬華の居場所がわかったのか、気にしてたよな。

冬華の自転車、錆びて嫌な音がしていたから、明け方その音が聞こえて、気になって見に行って、気付いたってわけ。

居場所がわかったのは本当に勘。

なんかもう、運命だよな。最高だよ、俺たち。


話が逸れたけど、止めたくないって言っておいて、俺は自分を止められなかった。


助けられた命だからと、生きようとしないで、冬華。

冬華の日々は、とても無理をしているように見える。


冬華の命は、冬華のものだから。

俺が願っていいのは、冬華が自分の命を大切にしたいと、そう思えますように、ってことだけだ。


久子さんへの手紙を一緒に読んだのなら、もう、知ってると思うんだけど、俺、なんか先輩たちに目の敵にされてたみたいでさ。

ひどいんだよ。痛いのなんのって。


意地だけで耐えきったときにはもう、なんかぜんぶ、どうでもよくなってた。


好きだったものが、好きじゃなくなっていったあとには、不甲斐なさと情けなさと、いつも消えたいって気持ちだけが残って、笑っていると頬の端が痛くて、泣いていると目が焼けるように熱くて、起きていると苦しくて、眠っている間に願うのは、ただ、明日が来ないことだけ。


世界なんてぶっ壊れてしまえばいいと思ったよ。

わけもなく苦しかった。

目に見えないものに苦しむことが、辛かった。


明日が来なくていいと本気で思ってた。


冬華もこんな気持ちだった?

だとしたら余計に、俺がしたことは冬華に恨まれても仕方がないな。


俺の明日は来なくていい。

だけど、俺の友だちの明日まで奪いたくはない。


冬華の明日なら、大切に思えた。


人のために生きようとすることはできたのかもしれないけど、あいつらなら、この人達ならもう大丈夫だって思ったら気が抜けてさ。


迷いも不安も吹き飛んで、手紙を書いています。



この1枚が、本当の最後。

冬華への手紙は一番最初の1枚だけのつもりだったんだ。

だけど、俺、往生際が悪いのかな。

ただの自己満足にしかならない、冬華のためになることは一欠片もない、こんな手紙を残そうとして。


ごめん。最後なんだ、これで。

だから、好きに書き殴らせてくれよ。



誰よりも、冬華が好きだ。

だから、俺のいない世界で、どうか生きていて。


冬華の日々が優しいものであるように、心から願っています。

冬華と生きる日々を諦めた俺にはもう何も言えることなんてないけど、いつも、どこにいても冬華のことを想っています。


冬華。

俺は




冬華の、今日に触れたい。



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